大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)20号・昭35年(ネ)2731号 判決

一、控訴人矢田初代が本件土地のうち前掲目録(二)記載の土地上に同第二物件目録記載の建物を所有するとして、横浜地方法務局横須賀支局昭和三十年四月十四日受付第四〇九八号をもつて所有権保存登記手続をなし、次で控訴人村越圭一のため同支局同年四月一五日受付第四、一四五号をもつて、同日附抵当権設定契約に基く債権額金五十万円弁済期昭和三十一年四月十四日より同三十二年一月十四日まで毎月五万円宛割賦弁済、利息年一割八分とする債務につき抵当権の設定登記手続をなし、さらに、控訴人岡田兼子のため同支局同年七月二十日受付第七、三一〇号をもつて、同日附抵当権設定契約による債権額二十七万円弁済期昭和三十一年七月二十日、利息年一割八分とする債務につき抵当権設定登記手続をなしたこと及び、上記第二物件目録記載の建物が存在しないことは、いずれも各当事者間に争がない。

それならば上記控訴人矢田初代のなした建物の保存登記は実質を伴わない無効の登記であつて、右登記の存在することは被控訴人が本件土地上に建物を建築した場合に、その保存登記をなすことにつき妨害となることが明かであるから、控訴人矢田初代は右登記の抹消登記手続をなすべき義務があり、右登記の有効なことを前提としてなされた上記各抵当権の設定登記もまた無効なものであり、控訴人村越及び岡田の同意がなければ、右建物の保存登記を抹消することができないから、右控訴人等は上記保存登記の抹消登記手続をなすことにつき承諾を与えなければならない。

二、被控訴人は、上記認定の控訴人常盤石炭が本件建物部分を権原なくして占有し、被控訴人に損害を被らしめたのは、取締役である控訴人田中健の職務を行うについて悪意又は重大な過失に因るものであるから、有限会社法第三十条の三により同控訴人はその在任中被控訴人の被つた損害については控訴人常盤石炭と連帯して損害賠償の責任を負うべきものであると主張するので判断する。

上記常盤石炭の占有部分を含む本件建物は昭和二十八年三月三十日(同年五月二十日所有権取得登記)訴外会社がその所有権を取得してその旨の登記手続を経たことは前に認定したとおりであつて、原審証人海野栄次郎、同安部美枝、同小峯巖、同鈴木利光(但し後記信用しない部分を除く)、当審証人飯塚新吾の各証言及び原審での控訴人矢田三次本人尋問の結果(第一回)を綜合すると、次の事実を認めることができる。

訴外会社は本件建物の所有権を取得し、その引渡を受けた後はその社員を右建物に居住させていた。控訴人田中は鈴木利光と共同で薪炭販売業を行つていたもので、昭和二十九年十二月頃右鈴木が控訴人矢田三次に本件建物部分の借用方を申出てたところ、本件建物は被控訴人の所有であることを理由に一応断わられたが、石炭置場として一時的に使用することを約して、控訴人矢田三次の承諾を得た上当時右建物部分に居住していた訴外会社の社員を無理に退去させて、その使用を開始した。その後昭和三十年六月二十三日控訴人田中及び鈴木等は控訴人常盤石炭を設立し、控訴人田中がその代表取締役となつたところ、右建物部分を同会社が占有使用することについて、控訴人矢田三次から前記約旨と異る旨の詰問を受けたが、いぜん同会社の営業のために社屋として右建物部分の占有を継続した。

原審での証人鈴木利光の証言及び控訴人田中健本人尋問の結果中上記認定に反する部分は信用することができず他に右認定を左右し得る証拠はない。

右事実によれば、控訴人田中健は昭和三十年六月二十三日から昭和三十三年十一月十九日までの間控訴人常盤石炭の代表取締役として同会社の業務一切を執行していたのであつて、本件建物部分が控訴人矢田三次の所有でなく、同会社がこれを占有使用し得る正当の権原を有しないことを知りながらその業務上同会社の社屋としてこれを占有使用させ、被控訴人に賃料相当額の損害を被らしめたものであるから、右は有限会社法第三十条の三所定の取締役がその職務を行うにつき悪意をもつて第三者に損害を蒙らしめた場合に該当するものと解するを相当とする。

してみれば、控訴人田中は同会社の取締役として前記法所定の不法行為上の責任を免れないのであるから、他の点について判断するまでもなく、同会社が上記建物部分を占有することによつて、被控訴人に被らしめた損害につき会社と連帯してその賠償をなすべき義務があるものといわなければならない。

(村松 伊藤 杉山)

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